DTP kill the Photocomposition|2009.09.02 / Flip
かつて「この雑誌はフルDTPで製作されました!」なんて事が売りになった時代がありました。DTPしか知らない世代には???でしょう。ロットリングでトンボを書き、写植オペレーターさんに文字を打ってもらい、あがってきた印画紙にペーパーセメントを塗り、それをカッターで切りピンセットで貼る。レイヤーも本当にフィルムでレイヤーを何層にも重ね、出来上がったモノクロの世界にトレペをかけ%で色指定を書き込み入稿!あの時代みんな肘に写植がひっついてたものでした。そんな究極なアナログスタイルが、パソコン〜Macの登場により、GEのレイアウト用紙がデータとなり、DTPというデジタルな世界へと様変わりしました。
アナログの時代は良かったな〜と言う気はさらさらありませんが、良いもの、正しいもの、美しいものはアナログからデジタルに変わっても受け継いでいかなくちゃと日々思うのです。
そんな劇的に変化をとげたデザイン・印刷業界の渦を身をもって体験してこられた<WORK STATION えむ>の宮地知さん。現在本業のDTPオペレーターとして活躍される傍ら、DTPのセミナーや勉強会も開催。そんな大先輩・宮地知さんにいろいろお話を伺ってきました。
M:宮地知
U:underson
宮地さんのデザイン人生を教えてください。もともとは写植のオペレーターさんだったんですか?
1978年くらいかな、デザイン、レイアウト、写植、版下をやる会社に入ったんです。そこでレイアウトとかトレースとかロゴ描いたりとか、写植打ってもらって版下作ってたんですけど、写植のオペレーターがいない時、機械いじったりして「この機械面白いな」って。自分で細かく指定して打ってもらうより、時間がない時、自分で打ったほうが早いやん(笑)って。それで写植なんかも憶えて。
パソコンが入り始めたのは25歳くらいかな。NECの88とか98が出るぞ〜って。
88はワープロみたいな感じで、98くらいからこっちの業界に入ってきたのかな。いわゆるオフィスコンピューターって呼ばれるやつ。
その98が出た頃、写植も電算が出てきた。
電算機の初期はコマンド打ち込んで写植を打つんですよ。だから画面はただのテキスト。例えるならHTMLのコーディングみたいなもんです。書体や級数や送りを頭にいれて組み立てていく、でも画面では見れないという。
それがあまりにも面白くないから、その時代は自分でやらずオペレーターに写植打ってもらってたんですけど、電算の第2世代ってのは画面で見れる。
マウスじゃなくペンで、タブレットみたいに漢字を押して文字入力なんですよ、それは面白かった。
勤めてた会社がそれをすぐ買ったんですけど、ところがファンクションでコーディングやってたオペレーターはそんなん使われへんって、
今思うと6bitのCPUとかですごく遅かったし。
だから誰も使わずに置いてあったんでちょっと触ってみたら、
なんやこれで版下全部出来るやんって。
それが最初のデジタルでしたね。
で、91年に独立するんですけど、その時にシステム何にしようかなと。
業界の流れ的には写研だったんですけど、写研はさっき言ったようにファンクションで組むというのが主流で、画面で見たままやるというのは遅いしヘボかった。で、探してる時に住友金属が新聞専用のシステムを開発して、DTPのアプリケーションを作ったの。Edian(エディアン)っていうシステムで、そいつがなかなか良かったんですよ。800万円したんですけど(笑)独立するそいつを時入れました。
Edianはページ物には凄く優秀だったんですよ。
この業界、端物って1枚モノとか2ページくらいのものとかあるじゃないですか?ああいうのってスケジュールが無茶苦茶になるんで、1人で何個も抱えたらもうどうしようもなくなる。だからページ物専門にやるって宣言して。
MacのPower Macが出たのが6年目くらいかな。
1台入れてイラストレーター5とか触ってたんですけど、全然スピードが遅くて、ちょっと文字いれたらトロトロトロトロして、これは仕事には使われへんなって。
システムを全部Macにしたのは97〜8年くらい。
写植のはなし
写植屋さんを探してるんですが見つからなくて、大阪に写植屋さんってまだあるんですか?
もう大阪では動いてないかな。
ゼロって感じですか?
ゼロ!ゼロやね。
東京だとまだ割とありますよね。贅沢な使い方してたり。
アートディレクターもいろいろいてはるでしょ。
その人ご指名の写植オペレーターとかいてるんですよ。この人に打ってもらわんとあかんと。本文はMacでも仕方ないけど、タイトルと目次、奥付はこの人の手動機で!とか。だから結構東京では動いてますよ。
1つくらい残ってるかなと思ったんですけど。
仕事量が東京と違うからね。
写研はデジタルフォント出さないんですかね?
やらないんじゃないかな。創業者の石井さんの娘さんが今の社長ですけど、あの人が亡くなったら消滅するんじゃないかな。そこまで腹括ってる。
そんな感じなんですか!? 不謹慎ながら今の社長さんが亡くなったらダムの決壊みたく解放されるのかなと勝手に思ってました。
墓場に持っていくと思うな〜。解放するならもっと前にやってるだろうし。
あれは大切な文化。活版の明朝を手本にして全部書き上げた石井明朝とか、もの凄く綺麗。あれはもう日本の誇る文化だから、ちゃんとしたカタチじゃなきゃ世間に出してはダメだと。
ゴナの美しさってちょっとないもんね。
僕もゴナばっかり使ってました。だからMacになって新ゴ見た時ちょっと……でした。そういう美しい書体がある反面、今も普通に◯イ◯フォントとか使ってるの見ると、ちょっと何でコレ使うのかな〜って。
レタリングの時に習う文字の要素、エレメントの意味とバランスというのを最初にちゃんとやっとかないと美しい文字という基本がたぶん分かんないんだと。
◯イ◯フォントってどう見ても並べたら汚いですやん(笑)
文字のカタチに誤摩化されちゃうんだろうなぁ。
最初にそういうキチンとした知識を持ってなかったらというか
勉強する場がなかったらな……。
もともと写植って石井さんと森澤さんが一緒に大阪で始めたんですよ。
石井さんはソフトの人で森澤さんはハードの人。
だから方向性の違いで石井さんの写研は東京行って、
森澤さんのモリサワは大阪に残った。
なのでモリサワの機械ってすごく評判いいんですよ、ハード屋さんなんで。
写研さんの機械は故障が多かったけどソフトの人なんでやっぱり書体は美しい。
これ廃業する人から貰った文字盤。
スーボのOやね。
昔、写植を打ってる人をよく後ろから眺めてて思ってたんですけど、これって文字がどこにあるかって憶えてるんですか?
そう。独特な並び方になってて、一寸の巾って言って一、寸、ノ、巾〜と辺とかつくりで並んでるんです。( 配列の解説はコチラ!)
写植の話してますけど、今の若いデザイナーさんは写植の機械なんて見た事ないんで、どういう風景かも想像出来ないでしょうね。
(そんな方にコチラにて写植を打つ姿が垣間見れます)
僕が入った頃、M6型っていう手動機の機械があって、
灰色で鉄ムキ出しで歯車がそのまま見えてるんです。
すっごい綺麗な機械で、打ってたら歯車がカタカタ回って、
写植ってどうなってるのがひと目で分かる。
歯数って何なんだっていうのもすぐ分かる。
あ〜。歯送りの歯って歯車の事ですもんね。
そう。歯車がカチャっと1つ動くから。
あれは日本が産んだ工業機械の名機やと思うな、あれは値打ちあるなぁ。
写植のオペレーターってすごく待遇が良かったんですよ。
あの時代、20歳くらいで写植憶えて、出来る人は25〜6歳で独立して、
35〜6歳くらいで普通に家買えるくらいの年収はあった。
僕より5つくらい上の人に聞くと、
あの頃は面白いように仕事があって、面白いように金儲かったって。
写植って高かったですよね。
そう。タイトルだけでも3000円とか。
それだけ職種として値打ちあったからね。
今はパソコンで誰でもピャピャッピャ〜って打ったら、それなりの書体で出せるってのがね……。
印刷業界自体、デジタル化が進んだ時レベルがガーっと落ちた。
レベルの下がった印刷物が普通に流通しちゃうと、それが当たり前ってなって。
そうなってくると仕事自体の値打ちもね……。
この業界自体が写植版下とDTPとでスパッと切れてるんですよ。
今までアナログで培ってきた綺麗な組版、綺麗な印刷物、綺麗な写真の出し方とかが受け継がれず、デジタルになる事で一旦リセットされてしまったというか、またそこでイチから始まってる。
おまけにMacでのDTPが普及し出した頃ってバブルがはじけて景気が悪くなって来た頃と同じくらいなんですよ。そこで「MacのDTPで早く、安く出来ますよ!」って仕事の取り合いをして、そこでガッと値段が下がってしまって。
今ドツボじゃないかな……。
デジタルになって組版のルールっていうのもすごく適当になってますよね。縦組なのに横組のダブルクォーテーションマーク入ってたり、酷いのはひっくりかえったまま入ってたりして。
あれは僕ら鷹の爪って呼んでる。
ピリオドとかも横組のやつ入ってたり。
それが普通になるのは怖いなと。
組版してて「ジャスティファイするとある部分がおかしくなるんですけど、どうしたらいいですか?」って質問されて、アプリケーションの話をしてもしゃーないと。
じゃ昔はどうやってんと。手動機とか、さらにその前の活版で組んでた時なんてジャスティファイなんてないやろ(笑)機械が勝手に伸ばして揃えてくれるわけないやろって。
みんな人間の手で、どこを開けてどこを詰めたら綺麗かというのをちゃんと計算して、それが知識としてあったら、どんなソフト使っても、どうやったら自分の思い通りの綺麗な組み方が出来るかっていうところに行き着くはず。
組版、日本語って何なんだろう? ベタ組みって何なんだろう?
そこに欧文のプロポーショナルが入った時どう変化するんだろう?
約物はどういう時にどれだけ詰めたらいいのか?
そういう組版のちゃんとした事をやっぱり憶えないと。
今の人は約物とか、和文数字とか、欧文数字の違いとか言葉すら知らなかったりするから。
組版のルールを全く無視したところから始まってる人が多くなってますよね。
昔は写研やモリサワが写植教室というのをやってて。機械買うと3ヶ月毎日無料で機械の使い方だけでなく、文字って何?組版のルールって何?って全部教えてくれたんですよ。今まではそういうベースがあったんでね。
とにかくレベルを上げて、世間に値打ちがあるって見せないと、
職種としての社会的地位ってのが上がらへんやろって。
ちょっといい話
今、プレゼンの仕方で、手書きのラフスケッチを見せるっていうのがあるんですって。例えばイラストレーターで作って見せると、四角の大きさがもうちょっと……とか角をRに……とか、そういう所に目がいくんですけど、鉛筆書きのラフで、ココに写真があって、ココにこれだけの文章があってとかってやると、全体を見るようになるんですって。スケッチの全体を見てバランスの話とかになっていくらしい。
勉強会のこと
去年から勉強会をやってるんです。最初は知り合いに口コミで回してもらって30人くらい来るかなあと心配してたら70人くらい来てくれはって。大阪はドタキャンが多いんですけど(笑)欠席者もゼロで。
いきなり難しい話して帰られても困るんで
まず「今日聞いて憶えたら明日からの仕事にスグ役に立つ話」をするんです。
そういうのって、来て良かったなって思うでしょ(笑)
で、そういうので心を掴んだ後に、
「スグには役にはたたないけど、いずれ必要となってくること、本当に大切なこと」仕事のやり方だとかワークフロウ的な話をするんです。いろんな事例をあげて。そんな話はどこもしないから。
販売店とかAdobeさんもセミナーやってるけど、あれは売りたいからやりはるので良い事しか言わないからね。
ソフトに特化した話も勉強会でやってるんですか?
はい。取り合えずやっぱりAdobeさん。
何がどうなってもAdobeさんが握ってるから、Adobeのアプリケーションの使い方とか.。
積極的に新しいものに取り組む人と、しょうがなく新しいのをやるって人がいるんですけど、新しいシステムの良いところを引き出して、前は1日かかってたものが半日で出来るようになるとか、そういう風に考えないと損やからね。
パソコンになってから、使う人間のレベルアップを要求しおるんですよ。
その枠の中だけでやってればいい訳じゃなく、人間がレベルアップしなかったら、ソフトが「俺ら上手い事まわらへんねん」って要求しよるからね。向上心持って勉強するって姿勢が無かったらダメ。
分かるメニューだけ使って、分からないメニューは使わんとこってやってたら、いつまでたっても早くならない。
だからアプリケーションに対して積極的になってほしいね。
オペレーターのはなし
DTPオペレーターって
このアプリケーションだけ使ってたらいいっていう人が多いんです。
僕なんかはアプリケーションはあくまでも道具、昔使ってたカラス口やロットリングと同じ感覚で使うから、別にInDesignじゃなくてもEDICOLORでもQuarkでも別にかまわないんですよ。
作るモノは一緒なんです、同じモノが出来上がってくる。
Quarkで作ったら立体で印刷出来るとかそんなんあり得ないわけだし(笑)
過程が違うだけで、出来るモノは一緒。
それさえ自分の中でハッキリしてたら、
全部使えるんです。
思想的にはみんな同じだから。
アプリケーションを動かして作っていくのを頭で思い浮かべていると縛られるんですよ。だからアプリケーションを無しにして作っていくシュミレーションが出来るようになったら、
InDesignでもQuarkでも使えるんです。
あんましガチガチにこれ使わないと!って凝り固まってるとかえって苦しい。
DTPオペレーターっていうのは、
指示受けてちゃんとしたデータを作るっていうのがまず最初の仕事、
それで3〜4年経った時、レベルアップというのがどういう方向にいくのか?
雑誌とかでDTPデザイナーって呼んで、デザイナーになっていくというのが道みたいに言うけど、それはあり得ないと思ってて。仕事しながらデザイナーになるのは無理だと。
そら、なる人はなれるだろうけど(笑)
デザインというのはすごく知識がいると思うんです。
みんなデザイナーって発想があればそれでいいやんとか、斬新なアイデアが出ればそれがデザイナーって言うけど、ちゃんとしたカラーコーディネイトの知識とかバランスやレイアウトの知識とか、
理論っていうのが絶対必要だと。
そういうものを身につけていないと一流のデザイナーにはなかなかなれない。
じゃあオペレーターの次、進む方向は何かというと、
DTPのデータを作る一番要のところにいて、
アナログなものを自分の所でデジタルにして、デジタルの印刷にまわす。
自分がデジタルの入り口になるから、
仕事の流れがちゃんと分かると思うんですよ。
トータルで仕事の管理が出来るような知識を身につけて、
営業さんにはスケジュール的な事を言えて、
印刷屋さんにはデータがどういう物になるのか指示が出来る、
デジタルの進行管理が出来るディレクター。
そういう方向にレベルアップしていくのが正しいと思うんです。
現場のこと
最近いろんな印刷屋さんに見学させてくださいって頼んでるんです。完全にデジタルになった今だからこそ、ちゃんと印刷の現場やシステムを理解したうえでデータを作っていくべきと思って。会社入り立ての頃、印刷屋さんに強制的に行かされたんですけど、印刷の仕組みとかが分かると、データを作るうえでの意味や、何故そう作るのかとか凄く理解できて。でも全部個人情報保護法がどうとか言われて断られてるんですよ……。
今度企画してるんですよ。
えっ本当ですか!?
あ〜もうそれ絶対参加します。
やっぱし、現場見るってのは一番身に付くからね。
僕らもあちこちよく行ったんですよ。
日本中から仕事受けてる長野の製本屋さんとか。
古い製本機とか箔押しの機械とか特殊な製本の機械とか
年期入ったのとかイッパイあって見事でしたね。
京都にある印刷屋さんは木版とかまだあるんですよ。
老舗の和菓子の包み紙とか、
あんなんオフセットではまだ出ないんですよ。
あと封筒に凸版で押して印刷する機械があって、
これはビジュアル的に魅せたいがためにこういう面白い動きにしたとしか思えない機械とかね。
印刷屋さんの見学の件はまた連絡します。
ありがとうございます!一緒に行く人募ります。
印刷の現場見た事ない若いデザイナーさんとか、これ読んでくれてる人とかイッパイ見てほしいなぁ、とか期待したら興味示す人ゼロでガクッとかなるんですけど(笑)みんなMacの前から動かないから……。
・「印刷屋さん見学ツアー」便乗参加は詳細決定次第Flip&Opus-Design内にて参加者募集いたします。みんなで印刷屋さん特有のあの匂いを嗅ぎにいきましょう。
・話にも出てました勉強会の3回目が決定いたしました。詳細や参加希望などはコチラから。興味ある方はぜひ!
Relation Link
WORK STATION えむ http://www9.plala.or.jp/work-s-m/
大阪DTPの勉強部屋 http://www.osakadtp.com
Thanks
なんでやねんDTP http://d.hatena.ne.jp/works014/
ワタクシundersonがちょっと気になるアンチクショウと旨い珈琲でも飲みながら肩肘張らない丸腰放談の中からクリエイティブの薬莢を見いだす針小棒大なコーナー。
Editor/
tsutomu horiguchi
from underson
2012.11.20 Tue